新品の機械式ムーブメントを、なぜLEVEL7は再調整をするのか

当たり前ですが、LEVEL7の腕時計には、新品の機械式ムーブメントを使用しています。
新品なのだから、そのままケースへ組み込み、文字盤と針を取り付ければ完成する。
そう思われるかもしれません。
しかし、LEVEL7では、新品のムーブメントであっても、届いた状態のまま腕時計へ組み込んで出荷することはありません。
組み立て前に動作状態を確認し、タイムグラファーで精度を測定する。
必要があれば調整を行い(ほぼ調整しますが,,,)、文字盤や針を取り付けてケースへ組み込んだ後にも、もう一度状態を確認する。
なぜ、新品のムーブメントにそこまで手を入れるのか。
理由は、新品の機械式ムーブメントが悪いからではありません。
新品であっても、クォーツ式とは異なり、機械式ムーブメントには個体差があり、ベストな設定まで追い込む必要があるからです。
そしてLEVEL7は、ムーブメントメーカーの出荷基準を満たしていることと、LEVEL7の腕時計として完成していることは、同じではないと考えています。
新品とは「すべてが同じ状態」という意味ではない
機械式ムーブメントは、多数の小さな部品によって構成されています。
ゼンマイから伝わった力によって歯車が動き、テンプが一定の周期で振動し、その動きを針へ伝えます。
外から見れば、どれも同じ型式の新品ムーブメントです。
しかし実際に測定してみると、すべてがまったく同じ数値で動いているわけではありません。
・進み気味の個体。
・遅れ気味の個体。
・姿勢を変えると数値が動く個体。
十分に安定している個体もあれば、少し調整した方がよい個体もあります。
これは、必ずしも不良を意味している訳ではありません。
大量生産される機械式ムーブメントには、メーカーが設定した許容範囲があります。
その範囲内であれば、製品として正常に出荷されます。
つまり新品とは、メーカーの基準を満たして出荷された状態でり、日差ゼロ付近まで細かく調整されているという意味ではありません。
量産ムーブメントだからこそ、最後の調整に意味がある
LEVEL7では、SEIKO系(TMI)のNH35、NH36、NH34など、実績のある量産ムーブメントを採用しています。
これらは、世界中の多くの腕時計で使用されている、信頼性と整備性に優れた機械式ムーブメントです。
部品供給や将来の修理まで考えたときにも、長く使う腕時計に適した選択肢だと考えています。
一方で、量産ムーブメントは、多くの時計メーカーへ安定して供給することを前提に作られています。
一個ずつ特定のケースへ組み込み、特定の文字盤や針を取り付けた完成状態に合わせて、最終調整されているわけではありません。
ムーブメントメーカーの役割は、安定した品質の機械を大量に供給すること。
そのムーブメントを使って一本の腕時計へ仕上げるのは、時計を作る側の役割です。
LEVEL7は、この最後の部分をムーブメントメーカー任せにはしません。
量産ムーブメントが持っている性能を確認し、できる限り引き出した上で、お客様へ届けます。
タイムグラファーで何を確認しているのか

LEVEL7では、ムーブメントの状態をタイムグラファーで測定します。
タイムグラファーは、機械式時計が刻む音を読み取り、ムーブメントの状態を数値や波形として表示する測定機器です。
主に確認するのは、日差、振り角、ビートエラーです。
日差は、その時計が一日にどれほど進む、あるいは遅れる傾向にあるかを示す数値です。
・振り角は、テンプがどの程度しっかりと振れているかを判断する目安になります。
・ビートエラーは、テンプの左右の振れがどの程度均等になっているかを見るための数値です。
日差だけを見て、ゼロに近ければすべて良いというわけではありません。
日差が良く見えても、振り角やビートエラーに気になる数値が出ていることがあります。
反対に、少し進み気味であっても、テンプが安定して振れており、全体として良好な状態の個体もあります。
ひとつの数字だけで判断せず、複数の数値と波形を合わせて、そのムーブメントがどのように動いているのかを確認します。
「動いている」と「状態が良い」は同じではない
新品のムーブメントへ針を取り付ければ、多くの場合は問題なく動き始めます。
しかし、秒針が動いていることだけでは、そのムーブメントの状態までは分かりません。
・進みや遅れはどの程度なのか。
・テンプは十分に振れているのか。
・動きは安定しているのか。
・時間が経過しても、測定値が大きく乱れないか。
こうした部分は、実際に測定しなければ判断できません。
外から見て正常に動いているように見えることと、腕時計として良い状態に整っていることは別です。
だからLEVEL7では、「新品だから大丈夫」とは考えません。
新品か中古かにかかわらず、測定して状態を確認する。
時計を作る側として、当たり前に行うべき工程だと考えています。
ムーブメント単体の状態だけでは完成ではない
ムーブメントを単体で測定し、精度を調整すれば、それで終わりではありません。
腕時計を完成させるためには、文字盤と針を取り付け、ムーブメントをケースへ収め、リューズや巻真を組み合わせる必要があります。
この組み立て工程で、ムーブメントにはさまざまな部品が加わります。
・針同士が接触していないか。
・針と文字盤、針とガラスの間に十分な間隔があるか。
・カレンダーは正しく切り替わるか。
・リューズによる巻き上げや時刻合わせに問題はないか。
・ケースへ収めた後も、ムーブメントが安定して動いているか。
ムーブメント単体では問題がなくても、完成状態でなければ確認できないことがあります。
特に機械式時計は、非常に小さな力で針を動かしています。
わずかな接触や取り付けの違いが、動作へ影響する可能性があります。
そのためLEVEL7では、ムーブメント単体の確認だけで終わらせず、腕時計として組み上げた後にも動作と精度を確認します。
重要なのは、部品の状態ではなく、完成した一本の腕時計として正常に動いていることです。
機械式時計を、クォーツ時計と同じ精度にはできない

ここで、誤解のないようにお伝えしておきたいことがあります。
LEVEL7が精度調整を行っているからといって、機械式時計がクォーツ時計と同じ精度になるわけではありません。
機械式時計の精度は、ゼンマイの巻き上げ量、腕につけている時間、置かれている姿勢、温度、使用環境などによって変化します。
タイムグラファーで確認する数値も、その測定時点における参考値です。
平置きで良い数値が出ていても、実際に腕につけたときには複数の姿勢を繰り返します。
使用者の生活や装着時間によっても、実際の日差は変わります。
そのため、タイムグラファーの数値だけを絶対的な性能として示すことはできません。
それでも、組み立て時に状態を確認し、明らかな進みや遅れを整え、より良い状態から使い始めてもらうことには、大きな意味があります。
機械式時計の特性を消すことはできません。
しかし、その特性を理解した上で、できる限り状態を整えて届けることはできます。
NH系ムーブメントは、調整によって本来の力を引き出せる
NH系ムーブメントは、高級機専用のムーブメントではありません。
構造が比較的シンプルで、特に耐久性や整備性を重視した実用機です。
しかし、実際に追い込めば、かなり良い数値をたたき出します。
LEVEL7の腕時計を使っているお客様から、
「NH系ムーブメントなのに、思っていた以上に精度が良い」
「所有している、もっと高価な機械式時計と比べても遜色がない」
という感想をいただくことがあります。
もちろん、すべての使用環境で同じ結果を保証できるわけではありません。
しかし、NH系だから精度はこの程度でよい、と最初から決めつける必要もありません。
ムーブメントの価格だけで、その個体が最終的にどのような状態になるかが決まるわけではないからです。
信頼性のあるムーブメントを選び、その状態を確認し、個体に合わせて調整しベストな状態に調整する。
その積み重ねによって、実用機が本来持っている性能を引き出せると考えています。
同じ部品を使っても、完成する時計は同じではない

腕時計は、使われている部品の名前だけで語られることがあります。
・ケースは何を使っているのか。
・ムーブメントは何を搭載しているのか。
・ラスはミネラルか、サファイアか。
もちろん、部品の選択は重要です。
しかし、同じムーブメントを使い、同じようなケースへ収めたとしても、完成する腕時計がすべて同じ品質になるわけではありません。
・誰がムーブメントの状態を確認したのか。
・誰が文字盤と針を取り付けたのか。
・誰が完成後の動作を確認したのか。
・異常を見つけたとき、誰が判断して手を入れるのか。
部品表には現れない工程が、完成品の状態を左右します。
腕時計の価値は、何を使ったかだけではなく、それを誰が、どのように完成させたかにもあります。
組み立てることは、責任を引き受けること
LEVEL7では、自社工房で一本ずつ腕時計を組み立てています。
それは、単にケースへムーブメントを収める作業ではありません。
・ムーブメントの状態を確認する。
・必要に応じて精度を調整する。
・文字盤と針を取り付ける。
・ケースへ組み込み、操作や動作を確認する。
・完成後、もう一度精度を見る。
そして、お客様が使い始めた後に不具合が発生した場合も、自社で状態を確認し、修理や調整へつなげる。
組み立てるということは、その腕時計が完成した状態に責任を持つことだと考えています。
新品のムーブメントをそのまま使わないのも、そのためです。
新品を疑うのではなく、完成品に責任を持つ
LEVEL7は、新品の機械式ムーブメントを信用していないわけではありません。
NH系ムーブメントが持つ信頼性、耐久性、整備性を評価しているからこそ、長年にわたり採用しています。
しかし、信頼することと、確認を省略することは別です。
メーカーの工場で完成したのは、ひとつのムーブメントです。
LEVEL7の工房で完成させるのは、お客様が腕につけて使う一本の腕時計です。
ムーブメントメーカーの基準を満たした新品を受け取り、その個体の状態を測定し、必要な調整を行う。
文字盤と針を取り付け、ケースへ組み込み、完成状態でもう一度確認する。
そこまで行って、初めてLEVEL7の腕時計として送り出せると考えています。
新品だから、そのままでよい。
NH系だから、この程度でよい。
LEVEL7は、そう考えません。
量産ムーブメントの優れた信頼性を土台に、人の目で確認し、人の手で整え、一本の完成品へ仕上げる。
新品の機械式ムーブメントをそのまま使わない理由は、特別なことをしているように見せるためではありません。
自分たちが組み立てた腕時計に、最後まで責任を持つためです。
それもまた、「MADE BY LEVEL7」を形作る大切な工程のひとつです。


